僕達急行 さよなら森田芳光
わたしにとって、森田芳光監督と言えば、「の・ようなもの」なのです。鮮烈でした。伊藤克信というやたら目のでかい栃木弁まるだしの人が主役でした。栃木弁丸出しの人が落語家の役をやるというのもおかしい設定ですが、その落語家志ん魚が「黄金餅」の道中付を東京の街を歩きながらやるくだりが、何とも印象に残っています。実をいうとほんとにゆるーい感じの映画で、あの時代の映画の特長をよく表している映画でもありました。それ以前の黒沢明とか木下恵介とかのようなドラマティックなものではなく安保や学生運動以降の気の抜けたサイダーみたいな雰囲気をよく出していました。それで、鮮烈なの?と突っ込まれそうですが、気張って見に行ったら腰砕けというのもアル意味、鮮烈な印象と言えるのではないでしょうか。その森田芳光さんが黒沢明の「椿三十郎」をリメイクした時は驚きました。月見そばばっかり食べていた人間がいきなり500グラムのステーキを食べようとするみたいでした。まぁ。でもかなりがんばったとは思います。かなり振り幅の大きい監督でしたが、この映画が最後となりました。そして、原点に戻った感じがしました。あのなつかしいゆるーい感じが戻って来たと思いました。
「A列車、一枚。」
「はぁ?もう一度お願いします」
「A列車じゃなくてB列車だったかな....」
「サブタイトルですか」
「ここでやってるんですよね。」
「僕達急行ですか。」
「そうそう、ぼくら特急、ぼくら特急」
「急行ですね。」
「はぁ、その急行一枚ください。」
いまから、電車に乗るのではありません。映画館でのやりとりです。覚えにくいタイトルでした。
テツキチの映画と聞いていたので、わかるかなと思ったのですが、それほどオタッキーな映画でもありませんでした。緩くてそのうえ、ちょっと松竹大船っていう感じもあります。
主人公の二人の青年は鉄道大好きなんですが、松山ケンイチ扮するコマチ君は音楽を聞きながら鉄道に乗るのが好き、瑛太扮するコダマ君はメカ好き。テツキチの鉄道へのアプローチは様々で、ひとくくりにはできないというのはよく聞く話ですが、なるほどなと思いました。ただ、鉄道についての愛情はみんなが持っている共通点でしょう。
二人はとても良い青年なのですが、青年らしい悩みもあります。鉄道好きが邪魔して、カノジョができません。でも私がみたところ、そんなに目をギラギラしてカノジョを探しているとも思えません。
車窓から眺めるとちょっと気になる風景が目に飛び込むことがあります。「あの明かりの点いている家はどんな家だろうかとか、プラットホームに立っている女性はちょっとワケアリな感じだなぁ。」とか。
そんなとき、興味があるけど、別にそれほど無理して近づく必要もないなと思ったりします。彼ら二人も降りられるんですけど、「まぁ。いいか。」というノリに見えます。これが、森田芳光らしさです。
コマチ君は不動産会社の社員。コダマ君は町工場の2代目。コマチ君は、九州に転勤になります。普通なら、都落ちで落胆するところですが、彼は九州の鉄道に乗れると思うとうれしくてたまりません、 一方コダマ君の工場では製品を開発するために新しい機械を導入したいのですが、銀行から融資を断られてしまいます。その上、いいなと思った御見合いの相手にもふられ、心機一転とコマチ君のいる九州まで遊びにいきます。
二人は、九州のローカル線で旅に出るのですが、そこで、同じようなテツキチの男に出会います。筑後さんというその中年男と、二人は意気投合。筑後さんの家の鉄道模型をコダマ君が修理したこともあり、3人は気の合う仲間になりました。
ところがこの筑後さんとの出会いが彼らの運命を変えていきます。筑紫さんは、コマチ君の会社があの手この手と交渉を続けていたソニックフーズの社長でした。筑紫さんはコマチ君やコダマ君としりあったことがきっかけで、中央進出を考え始め、コダマ君の町工場の技術が注目されることにもなります。
大手企業に認められたことで、銀行もコダマ君の工場への融資を引き受ける事になります。その上、コダマ君がふられた相手の父親がコマチ君が手を焼いていた地主とわかり、コダマ君の助けもあり、地主のオーケーが出て、晴れて、コマチ君は大口プロジェクトを成功させてしまいます。
この二人、仕事面では大成功ですが、結局コマチ君のカノジョ(あづさ)はサンダーバードなる外人と結婚し、コダマ君もふられたけれど気のあるそぶりだった地主の娘(あやめ)と、結局「あなたいい人ね」チャンチャンでおしまい。
それほど、悲しいことが続くわけでもないけど、すごーくうれしいわけでもない。これが人生だ。森田さんは最後に原点に戻ったようです。ちょうど、ジオラマの列車がトンネルをくぐり、ループ線をつかって高い山へ登り、様々な鉄橋をわたって、一巡りして最初の駅に戻って来るように。
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